マイペースあやべ
その日、食堂は目が回るほどの大忙しだった。
五年・六年の合同演習があるとかで、お弁当づくりで死んでしまいそうだった。
「自分で、自分で作って食べればいいのに!」
こんもりもって、前が見えなくなるほど野菜の乗った籠をふらふらともって歩きながら、は一人がなった。
この野菜もすぐに刻まれて煮込まれてお弁当箱に入る。
そしたら今度はもっともっとたくさんのお米を蔵から出してきて、焚かなければいけない。
食堂のおばちゃんは忙しくて、おばちゃんにしか出せない味付けがあるから、他の雑務はすべての担当だ。
「おもい…死んじゃうぅ…」
とは言っても、普段から割と力仕事が多いので、このペースでいけばなんとか野菜を落とさずに食堂までたどり着けそうだった。
「もうすぐ、食堂…」
そう思って、うんしょ、と荷物を持ち直し、もう一歩足を進めたところで、がくんと体が落ちた。
「わあっ」
がん、と後頭部に衝撃が走る。深く香る土のにおいと、丸く切り取られた青空が見えて、それっきり、目の前が真っ暗になった。
ふと目が覚めると、まっ白い敷布の上に寝ていた。
ぶつけたところには冷たい手ぬぐいが当てられ、手当てされたのだとわかる。
「ここ、は…」
「おやまあ、起きたの」
「あ、」
視線だけを隣に移すと、暇そうに髪をくるくるといじっている綾部がいた。
「あやべさん…」
途中で倒れるかなにかした自分を、助けてくれたのだろうか。
お礼を言わなければいけない。
「しるしをつけておかなかったからね」
「…え?」
「たこつぼ」
「…、たこつぼに落ちたんですか?」
「そうだよ。すっぽりおさまってたねえ」
「あやべさんの掘った、たこつぼ?」
「うん」
ぽかんとしてしまった。
たこつぼ掘りが趣味…趣味?と聞いてはいたものの、実際そのたこつぼに自分が落ちるとは。
しかも当の本人に助けられている。いったいどういうことだろう。
「え、えと…あ、」
「先生ならいないよ」
「……い、いさ」
「伊作先輩も演習でいないよ」
二人きりの空間に、わずかに微妙な空気が生まれる。
くるくるといじっていた髪を指先からふつりと放し、その指先をすっとの頬に滑らせる。
「いつもはね、落っこちたらいけないと思うから、あの道には掘らないの」
今日は六年生もいない。先生もいない。
落ちたら…自分がたこつぼに落ちたら。
誰が手当てをする?
誰と二人きりになる?
口を開こうとしたとたん、人差し指がふれてしゃべれなかった。
「ふふ、わかったみたいだねえ」
いたずらっぽくほほ笑む彼に、心臓が早鐘のように打つのを感じた。
おりこうさん