まず関係
ごく普通の少女、
は、10歳の時、父が昔学んでいたという忍術学園に奉公に出た。
くのいちとして入学するにはいかんせん体が弱かったし、安心して預けられる場所というときに両親の口から出たのがその場所だった。
仕事といえば食事を作ったり、こまごまとお茶を入れたりするばかりで、もともと料理好きだった
にはもってこいの奉公先だ。
そして、はじめてその門をくぐったときから、1年がたった。
同じ年の友達もでき、食堂のおばちゃんとも仲良くなって、きっと他に奉公に出た子たちよりも自分はずっと幸せだと思える生活を送っていた。
「やあ、
」
「こんにちは、
ちゃん」
昼食時のいそがしい食堂で、ぱたぱたと動き回る
に声をかける二人組がいた。
「あ、こんにちは、三郎さん、雷蔵さん」
鉢屋三郎と不破雷蔵、忍術学園の5年生であり、
に思いを寄せる男の子でもある。
「や、
ちゃん。まだB定食残ってる?」
「おい兵助、いい加減豆腐ばっか食うのやめろよ」
後ろから、同じ色の制服を着た二人も合流してくる。
仲良し5年生、4人組だ。
「久々知さん、竹谷さん、こんにちは。B定食、まだありますよ」
いつもこのメンバーで食堂にやってきては、やいのやいの言いながら残さず奇麗に食べ終わり、
に愛想をかけて去ってゆく。
は4人が大好きで、4人も
が好きだったので、特別仲のいい、と言われるまでに周りに認識されていた。
「じゃあ、みなさんいつものでいいですね」
はにっこり笑って、食堂の奥に戻っていく。
「うん、よろしく」
4人は込み合っている食堂の席をとりにごった返す人ごみにまぎれていった。
「今日も可愛いよな、
」
「うん…かわいい。でも右手を少し火傷してたね。今日のA定食って、天ぷら?」
「おまえら相変わらずな。Aは天ぷらだった。Bは冷奴ついてる」
「豆腐はいいって。でも結局、三郎と雷蔵さ、どっちが好きなんだろうな、
ちゃんて」
ようやく4人固まって座れる席についた5年仲良し組一同は、いつもと同じようにだらだらと話をしながら定食が出来上がるのを待つ。
「
は私たちどっちも好きなんだよ」
竹谷の問いに、三郎がしれっと答える。
「はあ?だってそんなの…おかしくないか?」
「おかしいかもねえ。でも
ちゃんがそう言ったんだもの」
雷蔵も普通にそれにこたえるので、竹谷は少々混乱気味に久々知の髪をひっぱった。
「なあ、兵助、おかしいよな?女の子一人と男二人だぞ、恋のライバルってもんじゃないのか?」
「別に普通だろ、この二人じゃ…それに
ちゃんもちょっと、変わってるし」
「変なのは俺だけなのか?俺がおかしいのか?俺が間違ってるのか?」
久々知の答えにさらに混乱する竹谷に、追い討ちをかけるように三郎と雷蔵が言う。
「それに私たちは、お互いも好きだしな」
「うん、僕たち3人とも、みんな好きなんだよ」
はあ?とさらに竹谷が顔を引きつらせ、久々知が豆腐に乗せる薬味を吟味していると、食堂の奥から
の声が聞こえた。
「三郎さんたち、定食できました!とりにきてくださあい!」
その言葉に、さー食べるぞと3人は立ち上がり、竹谷は混乱の中に取り残されたまま、一応定食を取りに席を立った。
「それにしてもだよ」
あらかた食べ終わり、お茶をすすっているときに、また竹谷が話を蒸し返した。
「三郎、雷蔵、おまえらその…そっちなのか?」
「そっちって?」
「ああ、つまり、僕が三郎が好きで、三郎も僕が好きってこと?」
さらっと雷蔵が言う。
「そ、そうだけど…やっぱそうなのか?」
「ああ、まあ」
「だよねえ」
2人はごく普通の顔をして頷く。
「なんだよ、知らなかったのか?」
久々知がずずーっとお茶をすすりながら、キョトンとした顔で竹谷を見た。
「なんだよ、兵助は知ってたのかよ」
「うん、ていうか、学園のみんな知ってると思うけどな」
「おかしくないのか?」
「別に」
「僕らがそれでいいんだから、いいんじゃないの?」
「俺は関係ないしな」
「それでいいのかよお…」
竹谷が頭を抱えてテーブルに突っ伏す。
そこへ、問題の3人組の1人である
が、お茶のお代わりと羊羹を持ってやってきた。
昼時を過ぎた食堂にはいつの間にか彼らしか残っておらず、少しばかりおまけをだしてもばれないのだ。
「みなさん、昨日学園長先生からいただいた羊羹です。お茶もおかわりどうぞ」
にっこり笑って、お茶と羊羹をテーブルに置く
に、竹谷は恐る恐る聞いた。
「
ちゃん、さ…」
「はい?」
にこにことほほ笑み、竹谷に向き直る。
「…あのさ…えと…」
「?竹谷さん、どうかしたんですか?」
あまりにも純粋な笑顔なため、なんとも聞きづらい。
それでいいのか…それでいいのか?
「八左ヱ門はさ、
ちゃんが」
「わーわーわー!」
もごもごと口ごもる竹谷の代わりに、久々知が
に質問しようとすると、あわてて大声で竹谷がそれを遮った。
「なんだよ、聞きたいんだろ?」
「き、聞きたいけど…」
「なんですか?答えられることなら、なんでも答えますよ」
にこりと
が笑う。
「ほら、こう言ってるし」
「…
ちゃん、は、さあ」
竹谷がようやく口を開く。
「はい、
がなんですか?」
「…三郎と雷蔵がお互い好きで、そんな2人は
ちゃんが好きで、それでいい、の?」
うつむきがちに聞けば、
は一瞬硬直し、直後顔から首まで真っ赤にして、
「あ、あわわわ」
と呟きながら、お盆で顔を隠してしまった。
「なあ、それでいいんだよなあ」
「だよね」
今まで黙って羊羹を食べていた鉢屋と不破が
を見た。
は、全員の視線を一身に受けながら、小さく一度、コクンと頷くと、猛ダッシュで食堂の奥へ逃げ込んでしまった。
「ほらな」
「だから僕たちもそれでいいんだよ」
鉢屋と不破は、あー食った食った、と伸びをして、保健室に火傷の薬をもらいに行こうと言ってさっさと食堂を出て行ってしまった。
「…兵助」
「俺、次の授業の課題終わってないから、部屋戻るわ」
「………」
そして1人になった竹谷は、頭を抱えて、これでいいのか、俺が変なのか、と小一時間呟き続けたという。
三郎さんと雷蔵さん