桜ネタは早めに消化するに限る 



みんな迷いながら歩いて行く。
悲しいことや、辛いこと、それと同じくらいたくさんある、うれしいことを拾い集めながら。
友達、恋人、家族と並んで、時には競い合い、支えあい、それぞれの場所を目指して。


その輪の中に、自分は今いるのだろうか。
ふと不安になる。
過ぎていく日々は穏やかで優しく、不自由など一つもない。
塀に囲まれた安寧の中、自分は、生きているだろうか?
ひょっとして、毎年訪れる春は去年のものをつぎはぎしていて、自分は、ずっと先へは進まず、同じところをぐるぐるしているだけなんじゃないだろうか。
大切な人たちの輪から外れて、先を歩む彼らの背中に幻影を見ているだけなのかもしれない。


「そう思いません?」
、きみって不思議なこと考えるね」
「いつまでたっても背が伸びないのも、きっとそのせいだと思うんです」
「チビなほうが可愛いと思うぞ」


桜が見たいと思った。春の訪れ。
3月にもならないこの時期に、花なんか咲いているわけないのに、どうしても見たいとわがままを言った。
滅多にわがままを言わないだから、三郎と雷蔵は快くそれを聞き入れた。
学園の外へ出て、しばらく歩いて目的の桜並木についても、案の定青葉も茂らないか細い枝に、一羽の鳥がとまっている。
そんな景色を見て、は先ほどの話をしたのだった。


「こうして歩いていても、」


両方つないだ自分の手を、ふつりと下におろす。
途切れたぬくもりに目頭が熱くなる。足が止まり、肩から力が抜けて、視界がかすんだ。


「ほら、先へ行ってしまう」


半歩先に、二人の影がある。
立ち止まったを振り返った二人の足元は、どうしたってまきもどせない歩みがあった。


「ね、は歩くのが遅くて、たびたび立ち止まってしまうのに」


年齢の差。性別の差。身長の差。体力の差。
見据える未来の差。
身を置く世界の差。


「ふた、り、は」


歩いてゆく。
うずくまる自分を置いて。


「ばかだなあ」
「俺たちがを置いて行くわけないだろ」
「で、でも」
「ほら、ここにいるじゃない」
「いつだって届くところにいるさ」


そう言って、二人は手を差し伸べる。
半歩進んだ先から、手を伸ばせばすぐそこに、大好きな、温かい掌がある。


「どんなに離れていたって、が望めば飛んでくるよ」
「そうとも。さあ、お手をどうぞ、お姫様」


芝居がかった二人のしぐさに、思わず吹き出してしまった。
冷たくなった指先を、そっと開かれた手に乗せると、強く握りしめられる。


「飛び込んでおいでよ」
「俺たちが受け止めるから」


ぐいっと引き寄せられ、抱きしめられる。
春の訪れはまだ遠く、吹き付ける風は冷たいが、いつの間にか寄り添い歌いだした鳥たちに思わず顔が綻んだ。





春知らずの娘、鳥の歌声