ふみきはナチュラル王子
夏の匂いはいつのまにか秋のにじむようなオレンジに溶けて、それもやがて冬の冷たい雪色になった。
あわい水色の空は、夏のように高さもなく、ジャンプをすればそのまま成層圏まで突き抜けてしまうほどの青さもなく、ただ、世界を覆う屋根のようだ。
吸い込む空気は肺をさすようで、あのむせかえるような夏の匂いが恋しかった。
「おれ、はやく夏にならないかなって、冬いつも思うんだよね」
「へーえ?」
居残りで古典の勉強をする水谷の言葉に、前の席に後ろ向きに座ってそれを眺めるユキが相槌を打つ。
「寒いじゃん。で、夏暑いじゃん」
「うん」
「でもさ、夏は、あっちーな、はやく冬になんねーかな、って思う」
「わかるなー」
「もそう?」
「はどっちも好きだよ」
「おれもどっちも好きだよ」
昔の言葉ってわかんねー。そう呟きながら消しゴムをかける水谷と、は時々今の言葉もわかんない、と頬杖をつきながら洩らすは、なんとなく、冬のさみしさに心が侵されているようだった。
そして、少しの沈黙。
の指先が、古めかしい言葉をなぞる。
「おー、」
水谷が、その指先を追ってその手を取る。
「夏発見」
ちゅ、と軽く口づけた爪の先には、黄色のネイル。
指先にひまわり!