く…くち…?
「とりくおあとりと!」
真っ白な掛布を頭からかぶり、いきなり木陰から飛び出してきてこの一言である。
「とり…?」
「へーすけさん!とりく、おあ、とりと!」
不思議な言葉を連呼するちいさな恋人は、ぴょんこぴょんこはねながら両手を差し出してくる。
なんだろうこれは。なんなんだろう、これは。
「え…と。その…とりく、おあ、とりと?っていうのは、なに?」
「南蛮の言葉です。はおばけです。甘いのくれないと、いたずらするんです」
「へえ、ちゃん物知り」
「しんべえくんに聞いたんです。南蛮の…お祭り?」
ちっちゃくてぴこぴこ動く白い塊。かわいいなあとぼけーっと考える。
いや、ちゃんはかわいいんだよ掛布なんかかぶらなくても、とまたどうでもいいことが頭に浮かぶ。
「だからぁ、へーすけさん。とりくおあとりとです!」
とりくおあとりとー!とじたばたする彼女を見て、いとしさが胸に込み上げてくる。
次の授業に遅れそうなのだが、もう部屋に連れ込んであれやこれやしたいくらいに胸がきゅんきゅんしている久々知は、廊下を通り過ぎる雷蔵と三郎に「なにあれ」「白いほうはちゃんでしょ」「いや、兵助なにあれ」「気持ち悪いね」という心をえぐる言葉も華麗にスルーした。
「あっ雷蔵さん三郎さん、とりくおあとりとー!」
「はい飴」
「俺はなにももってないから、いたずらしていいぞ」
「あははぁ、くすぐっちゃうですよぉ」
「ひゃひゃひゃ!うひ!自分で言っといてあれだけど!あはは!やめろ!」
「馬鹿だねー三郎」
「いたずら完了!」
そこまでほわほわと桃色の妄想をしていた久々知は、はっと気がついて双忍からをひっぺがした。
「きゃ、」
「だめだ!は…はだめだ!やらん!」
「ぎゃは!兵助きっしょくわる!」
「ちゃん、大丈夫?いやになったらいつでも逃げておいでね?」
「はぁい」
「ちょ…!」
結局、さんざ「気色悪い」を連呼して去って行った二人を見送って、久々知とは静かになった廊下に二人きりになった。
「へーすけさん、授業はいいんですか?」
未だに掛布をかぶったままのが小首を傾げる。見えなくても、どんな表情をしているかわかるあたり、相当きていると思う。
「だって、まだ俺、ちゃんに甘いものあげてない」
「もってるんですか?いたずらしようと思ったのに」
「いたずらも気になるけどさ…甘いの、ほしいんだろ?」
「とりくおあとりとですから」
「…じゃあ、さ」
ふわ、と掛布の中にもぐり、驚きで薄く開いている桜色の唇にそっと口づけを落とす。
「…へ、すけさん、」
「甘いの」
そしてもう一度、今度は額に。
「ちょうだいって、いったろ」
真っ白な掛布の中で、二人きり、間近で瞳を見つめあいながら、はい、と小さく声を洩らす彼女を力強く抱きしめた。
甘いのちょうだい!
「いちゃいちゃしてるぜ、あのなかで」
「いくら掛布で隠れてるっていったって、ばればれだよねえ」
「廊下のど真ん中だし」
「授業サボって、あとでしぼられるね」
「その間にさー、俺らもトリックオアトリートしようぜ」
「あ、そういう発音なんだ?」
「そうそう。、舌っ足らずで可愛かった」
「兵助のどこがいいんだろうねえ…」
「あんな豆腐小僧のどこが…なあ…」
双忍も、今日も仲良し。