こっちもネタありがとー! 



少し遠くの街に食材の買い出しに行ったときの話だ。
付き添いに三郎がついたのだが、の足に合わせて歩いているうえ、荷物が多かったため、学園までの道のりを半分ほど行ったころには、日が沈んでしまっていた。
「このままだと最悪野宿になるかもしれないな…」
「えぇっ、野宿ですかぁ…」
三郎は実習やお使いで慣れているため問題ないが、は少々難ありだ。
「ごめんなさい、が足遅いせいで…」
「いや、仕方ないさ。は忍者じゃないんだから」
「うう…」
しかし、と三郎がまだまだ続く道のりを見遣る。
「少し近道をしたほうがいいかな」
街道から少しそれた森の中を行けば、いくらか早く着けるだろう。
は三郎さんについていきます」
「じゃあ、こっちだ。はぐれるなよ」
「はい」
二人は、荷物を抱えなおし脇道にそれ、暗い森の中へと踏み入っていった。




その日は月が細く、もやもやとした雲に見え隠れしてひどく視界が悪かった。
時折甲高く鳴き声を上げる鳥や、がさがさと物音をたてる獣の気配にはおびえた。
「ちょっと…怖い、ですね」
「そうか?安心しろ、このあたりは戦もないし、危険はないだろうから」
「いえ、そういうんじゃなくて…ほら、おばけとか」
少しふざけ半分で、子供っぽいですよね、と笑っただが、その単語を出したとたんに三郎が固まるのを見てしまった。
「おおおおおおおばけなんているはずないだろっ、馬鹿なこというなっ」
「さ、三郎さん…なんかすごい、汗…」
「汗なんかかいてないぞ私は忍者だからな!忍者だからおばけなんてそんな非科学的なものは信じていないしそもそも存在なんかしてない!」
「さ…三郎さん…?」
「そ、そうだ、はぐれるといけないから手をつなごう、うん、それがいい。そうしよう」
がしっと右手をつかまれる。その手は妙に汗ばんでいて、いくら鈍いでもわかってしまった。
(三郎さん、おばけ怖いんだ…)
くす、と笑う。いや、人の弱みを笑うのはいけないことだろうが、いつも完璧に物事をそつなくこなす三郎の弱点がおばけとは、なんともかわいらしいと思い思わず笑みがこぼれてしまったのだ。
「さ、さあ、こんな薄暗い所はさっさと抜けて、早く学園に帰るぞ!」
「はい、ついていきます」
そして正面に向き直ったその時だった。
「あっ」
木の根っこにが足を取られ、ぐきっと鈍い痛みが足首に走る。
、大丈夫か!」
あわてて三郎が支えるが、時すでに遅し、痛みで立ち上がれない。
「あー、うー、だ、大丈夫です…いだっ」
「大丈夫なもんか!腫れてきてる…まいったな、荷物がなければ抱えて運べるんだが」
「うう、申し訳ないです…」
しょんぼりと首を垂れる。
三郎は、どうやらおばけのことを意識しなければまったく問題ないらしい。
今はのことに気を取られて、すっかりいつもの完璧な変装名人だ。
「仕方がない、今日はここで野宿して、明日明るくなってからゆっくり歩いて帰ろう」
にとって初めての野宿だったが、三郎といっしょならば不安もない。
「ごめんなさい…そうさせてもらいます…」
「気にするな。さあ、足を見せろ。冷やさないとな」
水筒の水で手ぬぐいを濡らし、座り込んだの足もとに跪く。
「い、た…」
ひんやりとした冷たい手ぬぐいが心地よい。
「ありがとうございます…」
は小さいのによく頑張ったよ。今日だって、重い荷物を抱えてここまで歩いたじゃないか。それで充分だろ」
ふ、と笑う三郎に、少しときめきながらも、子供扱いされたことにむっとして思わず言い返してしまう。
、子供じゃないです!三郎さんのほうが、おばけ怖がって子供みたいです!」
再びの口から飛び出したおばけという単語に、またも三郎が固まる。
そこでタイミングよく月が隠れ、霧が濃くなってきた。
急に風が凪ぎ、葉の擦れるさわさわという小さな音だけが世界を支配する。
「…なんか、今にも」
「言うなあっ!」
おばけがでてきそうな、と言おうとした瞬間、がっと口を手でふさがれてもごもご言ってしまう。
「むー、うー!」
「おおおお俺は忍者だぞ忍者忍者たるもの常に冷静であり科学的な根拠に基づいたもの以外に怯えるなど言語道断」
「うー!」
「そもそもそうそんなものいないハチやへーすけや雷蔵なんかはよくお遊びで肝試しとかいう遊びに興じているが俺から言わせればそんなものくだらないものだし」
「むー!」
「いやそういえばなんか言ってたな肝試しのとき…そうだ、、これしかない!」
「っぷは!しぬー!」
「いやらしいことだ!」
「は!?」
ようやく手を離してくれたと思ったら、突然のこの発言である。
ぽかんと口を開けて三郎の顔をよくよく見つめると、もはや冷静さに欠けた一人の少年でしかない。
「いやらしいことをしていると、おばけはよってこないと聞いた!これだ!これしかない!、いやらしいことをするぞ!」
「いや、何言って、」
「もちろん俺だってそんなおばけだなんて非科学的なものを信じているわけじゃないが念には念を入れて…いや、そう、が怖いんじゃないかと思ってな!」
「別には」
「そうだこれはのためだ!断じて俺が怖いからとかそういうんじゃないぞ!」
「いやだから別には」
「さあ!そうときまればいやらしことをする!覚悟はいいな!」
「よくないです!ぜんっぜんよくないです!」
片手で自分の袴の紐をほどき、もう片手での小袖の帯をときにかかる。
「ぎゃあ!よくないですってば!外ですよここ!何考えてるんですかあ!」
「大丈夫!問題ない!全て俺に任せておけ!」
「ばかぁ!やー!たすけてー!」
「これぞ鉢屋流一石二鳥の術だー!」
「うわーん!」
こうして夜は更けて…




翌朝。
「はいこれ全部持ってくださいね」
「……はい」
「ついでに、いろんなところが痛くて歩けないので抱えてくださいね」
「……はい」
「で、今何か言いたいことはありますか?」
「……反省してます」
「他には?」
「……二度としません」
「あとは?」
「………」
「正直に、ですよ」
「………おばけ、こわいです」
「よろしい」
背中に大量の荷物を抱え、腕にはユキを抱きかかえてえっちらおっちら歩く三郎の姿がようやく学園の門のあたりまでたどり着いたとき、三郎の体力、精神力はほとんどゼロに近かったという。




おばけがこわい