片思い少女 



朝起きて、まず最初にすることは、隣の家の窓の確認。
カーテンがあいていて、中の住人がいなければ、今日も元気に学校へいったということだ。




ああ、愛しの高校球児!





全力ダッシュで登校し、まず最初に行くのは野球部のグラウンド。
元気な掛け声が聞こえる中で、愛しの彼を探す。
「あぁん、ゆうくん発見です…!」
栄口勇人、哀れなのかなんなのか、のターゲット、片思いの相手である。
走り込みでグラウンドをぐるぐる回っていて、丁度フェンス越しに近くに来た時に、思わず
「きゃー!ゆうくん!かっこいいですー!!」
と黄色い悲鳴。憧れもいりまじり、思わず敬語になってしまう。
当の栄口は、困ったような顔で、それでも笑みを返してくれる。
(ああ、やっぱり素敵…それでこその見込んだ彼…!)


丁度、高校に入る時に引っ越した先が、栄口の隣の家だったのだ。
一目見て、その優しげな微笑みに惚れた。
そして学校へ行って、野球をやっているところを見て、二度目の惚れ。
更に帰り道をたまたま一緒に帰ったとき(いつもは野球部の練習があるので帰れない…)、楽しげに野球を語る彼に三度目の惚れ。
はっきり言ってメロメロだ。


ちゃん、今日も早いね」
野球部のマネージャーの千代ちゃん(ゆうくんを追いかけまわしていたらお友達になりました)が、にこにこ話しかけてくる。
「うん、今日も頑張って、朝練間に合うようにきたの。だって、野球してるゆうくん格好いいんだもん!」
の家は母がいないので、家事はほとんど一人でやっている。
それさえなければ野球部のマネージャーになったのに…といつも歯がゆい思いをしている。
(家事がなければ、一緒に登校したり、下校したり…できるのにな、うひひひひ)
想像して思わずよだれがたれそうになった。
ちゃん…よだれ…あ、練習そろそろ終わるよ」
やばいやばい、と口元をぬぐう。愛しのゆうくんにこんな姿見られたら…


「おはよ、ちゃん」


と言ってる傍から話しかけられた。
なぜ名前呼びなのかといえば、が無理やり「ってよんでください!じゃなきゃいやです!」とごり押ししたからだ。


「お、おはようです、ゆうくん!今日も朝練、おつかれさま!」
にっこりわらって、お茶を差し出す。ちょっとマネージャーっぽい。
「ありがと。今着替えてくるから、一緒に教室行こう?」
ああ、やっぱりゆうくんは優しい…
相変わらずだなー」
「らぶらぶー」
「栄口うらやましいよなー」
部員(の目には、ゆうくんと愉快な仲間たち、としか認識されていない)が口々にからかってくる。
二人は別に付き合っているわけではないのだ。好きですとは思いっきり全力で叫んで伝えたが。
今は野球しか頭にないから、ごめんね、と言われた。
だけどはあきらめる気など毛頭なく、「なら野球を押しのけてが入り込んでみせます!!!」と言い返した。
そんなこんなで、 の片思いは野球部どころかクラス中、学校中にひろがり、今や名物と化している。


「うん、待ってます!」


あなたのためなら江戸時代から24世紀くらいまで余裕で待てます!と心の中で叫びながら、そわそわしながら、前髪など整えてみる。
ああ、毎日が楽しい。
最高に楽しい。


「おまたせ、ちゃん」


…もう、さいっこうに、たのしい!