クリスマス 



しんしんと雪の積もる音が、耳の奥底まで響いてくるような夜だった。
部屋の明かりを消して、窓から遠くに見える色鮮やかな街の明かりと、一つだけともしたキャンドルの柔らかい光に包まれて、部屋は美しく、静かで、神秘的だ。
きれいに整頓された部屋の真ん中、丸いテーブルの中央に、この夜に定番の白いあれを乗せた皿が一つ。
ナイフをその白いあれに差し込み、切り分ける…




と見せかけてめった刺しにした。
上京してから2年、これまでもこれからも彼氏などという都市伝説には縁がない。
部屋が暗いのは電気料金を滞納して止められているからでキャンドルっていうか非常用のロウソクだしテーブルに乗っかってるのはケーキじゃなくて豆腐だし。
一人メリークリスマス。まさに。まさしく。
「メリークリスマース!カップル死ね!」
しゃらぁぁぁという掛声とともに一秒間に十六連射のナイフ乱れ付きを繰り出す。
「豆腐が!豆腐がなんぼのもんじゃい!豆腐!!!」
粉微塵に粉砕されていく豆腐。
やがて豆腐はあまりの速度のナイフ連射に耐え切れなくなり、なんと、爆発した。
大事なことなので二度いう。豆腐が、爆発した。




「な、なんてこった…ついに積もり積もった怨念が豆腐という白く柔らかな食べ物代表を爆発させ」
「いて…な、なんだここ、なんだこれどうなってんだ?」
「だっ、だれだー!!」
無駄に戸締り厳重なこの部屋の中には、自分以外誰もいないはずだ。
しかし、噴霧に包まれたテーブルの上から、若い男…少年だろうか。の、声がする。
「だ、誰かいるのか?ていうか、ここは…」
「私んちだ!サンタさんですか?プレゼントならもらいます!」
「さ、さんた?誰?…あ、一年は組のきさんたくんのこと?」
「誰だよ!」
もくもくとなにやら甘いような豆腐の匂いのする煙がはれる。
そこにいたのは、濃紺の着物?を着たまつ毛の長い美少年だった。




「…サンタさん!ありがとう!」




とうとうこの独り身のさみしい女のもとに、美少年という何にも勝る素晴らしい贈り物を、サンタは、サンタはくれたのだ!
嬉しさのあまり思わず少年に抱きついた。
すると、初心なのかなんなのか、少年はかあっと頬を赤く染め(たように見えた、なにせ明かりがロウソク一本なのでよくわからない)、わああっと声を上げ飛びのいた。




「わわわ俺はそのあの」
「あ、どうもです!今日からよろしく!」
「え?あ、俺は久々知兵助です。よろ…え?」




自己紹介をして手を差し出すと、勢いで名乗り握手をしてくれた。
が、すぐに我に返り、また疑問符いっぱいの顔になる。
サンタさんは話を通しておいてくれなかったのか。めんどくさい。




「豆腐がさー、爆発してさー、そんでへーすけくん?がでてきたんだよ」
「そんな…俺、部屋で豆腐眺めてただけなのに…」
「ん?なんかおかしいよね今の。まあほら、こうなっちゃったものはしょうがないし、お姉さんと一緒に住もうよ永遠に」
「いや俺帰らないと、今日から冬休みなんで実家に…」
「あ寮住まいか何か?ていうかその格好なに寒くない?先祖がえり?温故知新?」
「え?ていうかお姉さん…お姉さん?」
でいいよ」
「あはい、さん。さんのほうがおかしくないですか?南蛮の洋服?にしてはシンプルですけど」
「うんまあユニクロのスウェットだからシンプルなのは認めるけど南蛮てきみ何時代の人だよ」
「室町時代ですけど」
「へぇ〜」




そこで話をいったん区切り私は部屋の隅に体育座りして考えをまとめた。
彼は豆腐の妖精なのか?室町時代ってなんぞ?ていうかあの格好って忍者とかそういう系?
タイムスリップっていうかサンタおまえ粋なことするなー彼帰る場所ないイコール私と住むしかないみたいなつまりは袋の鼠じゃないの?ん?お姉さん欲求不満だよ?




「あのさん」
「みなまで言うない、へーすけくん。お姉さんが責任もってきみを養ってあげるからね」
「え…いや、あのだから実家に」
「きみ、窓の外見てごらん」




言われたとおり、彼は窓際に立った。ガラスの透明さにまず驚いて、そしてそこから見える景色に彼の喉が凍りついた息をこぼすのが聞こえた。









お世話になります