クリスマス 



「そういえばさー」
翌日、「お腹が減ったらこれ食べて」と渡したパンやらおにぎりやらを食べつくしてぼーっとしていたへーすけくんに、昼前にもそもそ起きだした私は言った。
「ケーキ」
「けーき」
「買ったのに食べてないじゃんね」
「けーき」




へーすけくんは起きるのも早かったが、寝るのもかなり早かった。
電気がついて、夜でも明るい部屋を見て、「こんなの体に悪いですよ!」といってすぐ電気を消し、寝てしまった。
私はまあ、その日は早く起きていたからすぐ寝たけれど、遅寝遅起きになじんだ体は今日も昨日と同じサイクルとはいかなかった。
とりあえず顔を洗い歯を磨いて、テレビをつけながらパンをかじる。




「わあ、なんですかこの箱!」
「テレビ。いろいろ見れる。すごい。便利」
「いや、もっとこう…あ、いや、いいです」




へーすけくんは私の適当な説明にいい加減なれたらしい。リモコンをぷちぷちいじったりして、楽しそうだ。
テレビ一つでこんなに楽しめるなんて、いいな。




「…何書いてるんですか?」
「へーすけくんの『わくわく』」
「わくわく?」
「今、3わくわく。昨日のはノーカンだから」
「いや、意味が」
「へーすけくんがわくわくしたら、1わくわく」
「ああ、そういう…」
「10わくわくたまると、私が1わくわくになる」




その辺のメモ帳に『正』の字で数えていく。カチカチと音を出してせり出されるシャーペンの芯にも、彼は興味をそそられている。




「1わくわく追加で、今4わくわくです」
「なんか、わくわく、って言葉がよくわかんなくなってきました」
「ゲシュタルト崩壊っていうんだよ、それ」
「げしゅ…?」
「はい、5わくわくです」




その後も順調にわくわくはたまっていく。




「これが。ででーん。ケーキ。甘い。すごい」
「白い!豆腐みたいですね」
「味気ないなー」
「豆腐は奥深いですよ」
「今13わくわく」
「食べましょうよ」
「14わくわく」
「いいから!」




せかされて、ケーキに包丁を入れる。本来ならクリスマスの夜、恋人と一緒にやるのがベストなのだが。
まあへーすけくんも楽しそうだし、いいか。




「さあ食べたまえ。もりもり食べたまえ。いちごも味わって食べたまえ」
「いただきます」
「私もいただきます」
「甘い!ふかふかしている!」
「まさに!それこそが生クリームとスポンジである!」
「これは…おいしい!」
「はい、1わくわくはいりました!15わくわくです!」
「いいから!」









わくわくゲシュタルト崩壊