クリスマス 



「もう年末じゃんね」
「そうですね」
「もちとかつく?」
「きねとかうすとか、あるんですか?」
「ないねー」
「じゃあ無理ですねー」
「あっそれとって、それ、おにぎり」
「あーなんか豪華な武具が」
「レアレア、とってとって」
「まっちょっと体力やばいです」
「回復おにぎりおにぎり」




はっきりいってやることがなかったので、二人プレイ可能なアクションゲームをやってみた。
最初のうちはよわよわで死にまくっていたへーすけくんだが、なれると案外うまい。
完全にこたつにひきこもり状態になり、二人してテレビに向かいコントローラーをいじる。




「どうする、また全国統一する?」
「もう飽きましたよ…別なのないんですか?」
「言っておくけど私金ないんだよ。そんなにいっぱいゲームもってないんだよ」
「…ですよね」
「その間腹立つわー」




しかし、せっかく室町時代からいらしてくれたのだから、ほにゃららランドくらいはつれていってあげたい。
いつ帰ってしまうかもわからないし(ひょっとしたらずっと帰れないかもしれないけど、そんなのはかわいそうすぎる)、今のうちにいろいろ楽しませてあげたいとは思う。思うのだが…




「金がねー…」
「いつの世もせちがらいですね」
「不景気不景気」
「まあ、俺、街をぶらぶらするだけでも楽しいですけど」
「えっ、まじで?」
「え、だって面白いじゃないですか。なんかきらきら光ってたし…」
「あ、あれもう光ってないよ、クリスマス過ぎたから」
「ええ!じゃあもっと見とけばよかった!」
「いやまて、今は紅白に飾り付けられてると思う」
「あ、正月ですもんね」
「見に行く?」
「行きたいです」




というので、とりあえずコートを着込んで(へーすけくんにはユニクロでダウンジャケットを買ってあげた)外へ出た。




「さぶっ」
「風冷たいですねー」
「きみ平気そうだね…忍者だから?」
「いや、なんか…ていうか、さんとこがあったか過ぎるんじゃないですか?」
「あー、文明」
「ですよ」




アパートの階段をカンカンと音をたてて降りる。空を見上げると、まばらに雲が浮いているが気持ちのいい青空だ。
風も最初は冷たかったが、そう強いわけでもなし、我慢できるレベルだ。




「公園とかいってみる?」
「よくわかんないですけど、まあ、行ってみたいです」
「興味レベルわかんないなー」
「行きましょう、とりあえず」




歩いて10分ほどのところにある公園は、比較的大きくて遊具もたくさんある。
足を踏み入れると、なんだか子供のころに戻ったような気がして、楽しくなってきた。




「イエーイ、滑り台ー」
「これ、こう登って、こうですか」
「そうそう、滑る滑る」
「おー、おもしろい」
「これ鉄棒」
「懸垂とかするんですか?」
「いや、まわったりする」
「現代人てすごいですね」
「あれジャングルジムね」
「上るんですか」
「そうそう、中にもはいれる」
「この砂は」
「砂場砂場」




あはは、あははは、と笑いが漏れる。この年になって公園でこんなに楽しめるとは思っていなかった。
二人でいると、どんなにつまらないことでも楽しい気持ちになる。
ひとしきり遊具で遊びまわって、二人鬼ごっこや二人だるまさんが転んだ、ふたりかくれんぼなどもしてみた。どれも惨敗だった。




「いやー、楽しかったですね」
「特にだるまさんは熱かったねー」
「最後の『だっ』が肝ですよね」
「うんうん、力入った」




すっかり日も暮れて、くたびれた体を引きずりながら家路に就く。
西日が差しこんできて、二人の頬は赤く染まって、まるで小学校のころにもどったみたいだ。




「街、結局見に行きませんでしたね」
「あー、忘れてた。今から行く?」
「いや、いいですよ、明日とかで」
「ふーん?」
「楽しみは残ってたほうがいいですし」
「ほーお?」
「俺、このまま帰れないのかなって、思ったりして、不安だったんですけど」
「…」
さんといると、そんな不安、ばからしくなって」




カァ、と一声カラスが鳴いて、電信柱から飛び立っていく影が見える。
へーすけくんは立ち止まり、黒い影を見送りながら、そっぽを向いて、言う。




「このままでも、」
「へーすけくん」
「…」
「帰れるし」
「でも」
「帰してあげるから」
さん」
「私が帰してあげるから!」




住む世界が違うなんて次元じゃない。何もかもが違うんだ。彼が生きていくのに、この時代はあまりにも冷たすぎる。
自分が責任もって養う?自分ひとりの食いぶち稼ぐのにだって精一杯なのに、何を言っていたんだろう。
馬鹿は自分だ。彼の不安も知らずにはしゃいで、大馬鹿者だ。




「…へーすけくんは帰らなきゃいけないんだよ」
さん…」
「鬼ごっこも、だるまさんが転んだも、かくれんぼも、全部持って帰って」
「…」
「…とりあえず、家帰ろ」




それからしばらく無言で歩いて、部屋に着いた。
私はただいまと言った。彼も、小声で、ただいまと言った。
こんなところ、きみの帰る場所じゃないよと言いたかった。けれどそれを言うのが怖くて、私は黙って靴を脱いだ。









「ただいま」のありか