クリスマス
その日はちょうどごみ出しの日だったので、へーすけくんほどではないが早く起きた。
ひとりでパンを焼けるようになった彼は、冷蔵庫からジャムを出してぬりたくって、甘い、おいしい、と言いながら食べて私が起きるのを待っている。
「あ、これあんときの豆腐のパック」
「豆腐ですか」
「うん。爆発したやつ」
「あー…」
「もったいねーなーって顔してるね」
「思ってますから」
「豆腐好きね…今日湯豆腐食べる?」
「食べます!」
しゃべりながら、なんとなく豆腐のパックを見回してみた。特に変わったところはない。
「賞味期限…30日までだ」
なんとなく捨てるのがもったいない。カイワレでも育ててみようか。
とりあえずきれいに洗って、そのパックは食器置場に置いておいた。まあ、記念品というかんじだ。
「ちょっとゴミ捨ててくる。テレビとか見てて」
「あ、俺も行きますよ」
「いいよー別に、すぐそこだもん」
「いや、いきます。はいもうゴミもっちゃいました。行きましょう」
「強引だねー若い若い…」
「さんだってまだ若いじゃないですか」
「心が老いてんだよ。も、若者についていけない」
ゴミ捨て場について、ゴミ袋を置いてネットを掛ける。
「はー。年末年始はゴミが多いこと」
「何かと物入りですからね。金が出てゴミも出る」
「うまいこという…いった?」
「言いました」
「いうねー」
寒い、早くもどろ、と踵を返したその時、急に両手をぎゅっと握られた。
「な、なに」
彼は答えない。じっと眼を見てくる。真剣な顔つきだ。
思えば、まじまじと正面から彼の顔を見るのは初めてかもしれない。
長いまつげ、大きな瞳、華奢な鼻筋に薄く整った唇、気の強そうな眉。
手は大きく、厚い。ところどころあたるかたい豆が、彼の今までの人生を物語っているように思う。
「へーすけくん」
「俺」
「う、うん?」
「帰りたくないって言ったら、さん、どうします?」
「…へ?」
彼の瞳は澄んでいる。きれいな目だ。悪いことなど触れたこともなく、思うこともなく、純粋に生きてきたのだろう。
「…馬鹿言っちゃだめだよ」
「ですよね。冗談です」
彼はそういうとパッと手を放し、早足で部屋へ戻って行った。
私はしばらくその場に立ち尽くし、握られた掌に彼の瞳を見ていた。
二人で湯豆腐を食べた。とても美味しかった。
スーパーの豆腐売場でああでもないこうでもないとうんちくを垂れた彼だが、結局豆腐はひとかけらも残さずに食べていた。
豆腐ならなんでもいいの、と聞いたら、なんでもいいんじゃなくて、どれも好きなんですと言われた。
馬鹿みたいだねえと笑った。
笑ったのは、彼がきてからで、それ以前の自分が何をしていたのかもうよくわからなかった。
笑っていたのだろうか。思い出せない。思い出せないのはいやな記憶だ。
今が楽しければいい。彼がいなくなっても、たぶんこの楽しい記憶は消えない。
だから大丈夫だろうと思う。思って、いた。
運命の行方は