クリスマス
胸騒ぎがして、その日はへーすけくんよりも早く目が覚めた。
100メートル走を全力で走ったみたいに息が切れて、脈が速くて、死んでしまうんじゃないかと不安になった。
へーすけくんは、私の呼吸がおかしくなったのに気づいてすぐに目が覚めた。さすがは忍者のたまごだ。
「大丈夫ですか」
「うん、なんか、わかんないけど」
「横になってください、水持ってきます」
「大丈夫、大丈夫だから」
「いいから、寝ててください。お願いです」
へーすけくんは泣きそうになっていた。私も泣きそうだった。いやな予感がしてたまらなかった。
「見えないとこにいかないでよ、おねがい」
「いますよ、ここにいます。俺、ここにいます」
「眠りたくない、いなくならないで」
「そばにいます、ここにいます。少し眠って、目が覚めた時も絶対、ここにいますから」
「いなくならないで」
「大丈夫です、お願いですから、少し眠って」
やさしい指が私の瞼を下ろす。舞台の終わりの幕のように、眠気が私の思考を遮っていく。
見えなくなる。何も見えなくなる。
何も。
目が覚めたのは、夕方だった。
彼はいなかった。
部屋のどこにも。
近所のコンビニにも。
近場の公園にも。
下のゴミ捨て場にも。
「サンタさんのばか」
頬が熱くなるのがわかった。なだらかな弧を描いて落ちていくのは涙だ。
涙を流したのはずっと久しぶりだった。笑うよりずっと難しいことだった。
「ばか…ばか、ばか、ばか」
体を小さくして、丸くなって、枕を抱きしめて、声をあげて泣いた。
感情をあらわにするのが怖くてしかたなかったのに、彼がきてから私はいつでも心から笑っていた。
今気づいても遅い。ありがとうも言えない。いなくなってしまった。彼は行ってしまった。
帰れてよかったなんて、そんな優しいことは思えなかった。一人にしないでほしいと、身勝手な思いが心を占めていた。
彼に会いたかった。もう一度会って、ありがとうと、伝えたかった。
ひとり