こんな時期にバレンタインネタ 



めんどうですが、名前変換のお名前のところをカタカナにしてお読みください




以前、ロンドンに住んでいたという叔父の紹介で、は念願だったイギリスへの留学をすることができた。
考古学の権威であるシュレーダー博士、そしてその教え子で同じく考古学を教えるエルシャール・レイトン教授の下で、日々一生懸命勉強をしている。
仲のよかった叔父からシュレーダー博士へ、そしてレイトン教授への伝達を経て、住むところまでレイトンにはお世話になっている。
お礼と言ってはなんだが、家事などはすべてがやっているが、紅茶を淹れるのだけはレイトンにお任せだ。
慣れない言葉や習慣に戸惑う日々だが、レイトンや弟子のルーク、アロマとともに、楽しい毎日を送っていた。




そんな日々を連ねてやがて一年が経ち、はもうすぐグレッセンヘラーカレッジの二年生になる。
寒い冬の気配の中、その日もいつものように大学で授業を受け、歩いてレイトンたちと住む家に向かって歩いている途中だった。
今日の夕飯は何にしよう、などと考えながらかじかんだ指先をすり合わせていると、うしろから男性に声をかけられた。
「すみません、さん」
「は、はい?」
振り向くと、大学で同じ講義を受けている、ある程度の顔見知りの男性だった。
「これ、受け取ってもらえませんか」
そう言って渡されたのは、奇麗な花束。
「は、はあ…」
実は、こんなことが今日で何度目かになる。
朝から顔見知りの人や、時にはまったく知らない人からもプレゼント攻撃を受け、今日は誕生日でもなんでもないのに、いったいなんなのだろうと首をかしげていたのだ。
「ありがとうございます…」
断っても断っても渡そうとしてくるので、もはやあきらめの境地だ。
男性は、はにかんだような笑みを浮かべて去って行った。
は行く時よりずいぶん重くなった荷物と、抱えきれないほどの花束をよいしょと持ち直して、家へと急いだ。
これ以上荷物を増やされてはたまらない。好意は嬉しいが、意味もわからずプレゼントをもらい続けるのはなんだか気がひけた。




「ただいまでーす…」
レイトンはまだ大学にいるし、ルークは今日も学校だからまだきていない。
家にいるのはアロマだけで、彼女がいそいそとを出迎えてくれた。
「わあ、いっぱいもらったわね、
アロマが、の荷物を見て拍手を送る。
「いっぱいもらったね、って…アロマ、これなんだか知ってるの?」
「あたりまえだよ、今日はバレンタインデーでしょ?」
「…へ?」
バレンタインデー…そういえば、今日はそんな日だった。
何日か前まで覚えていて、当日にはチョコを作ってみんなにあげようと思っていたのに、課題が多くて忘れてしまっていた。
「で、でも、バレンタインって女の子がチョコ送る日じゃないの?」
の国ではそうなの?ここでは男の子が好きな女の子にプレゼントする日なのよ」
「あ…ああー、そっか…国が違うんだった…」
事前にいろいろ調べたし、ここで一年も暮らしているのだから新たに覚えたことも多いが、こういう小さな行事に関しては体験してはじめてわかることもある。
「ねえねえ、それより、そのチョコを贈るのって楽しそうね!」
まだまだ馴染んでないな、と少し落ち込んでいたを、アロマが楽しそうに揺さぶる。
「ね、、チョコ作りましょうよ!それで、どっちのチョコがおいしいか、先生に食べ比べしてもらうの!」
「え…教授に?」
アロマは、がここにくる前にレイトンにいろいろと助けられたらしく、彼を慕っている。
だって、そういう気持ちがないといえば嘘になる。
なんといっても彼は紳士だし、柔らかな物腰や所作のひとつひとつから魅力を感じるのだ。
「そう!それで、おいしいっていってもらえた方が、一日先生とデートできるっていうのはどう?」
アロマは眼をきらきらかがやかせて言う。
「で、でも、デートとかは…教授がいいって言わないと、わからないんじゃ…」
「先生ならきっといいって言ってくれるわ、紳士だもの。ね、チョコ作りましょうよ!」
普段、「英国紳士としてはね」などと言ってばかりいるから、何につけても紳士だから、で片付けられてしまうのだ。
(まあ、はじめからチョコは作るつもりだったし、アロマも楽しそうだからいいか…)
は心の中でこっそりつぶやく。
(それに、もしうまくいったら…もしもだけど…教授とデートできる、かも…)
俄然、やる気がでてきた。
「じゃあアロマ、材料買いに行こうよ。教授が帰ってくる前に作らないと」
「決まりね!待って、すぐ支度するわ!」
ばたばたとアロマが走り去る間に、は自分にあてがわれた部屋に大量の荷物を置いた。
(チョコはいいけど…このプレゼントの山、どうしよう)
全部お返しをしなくちゃいけないんだろうか。こんなことなら、頑として受け取らなければよかった。
ため息をついていると、すぐにアロマがやってきて、二人は仲良く買い物に出かけた。




「…で、生クリームを入れて…うん、ゆっくりかきまぜて」
帰ってきてさっそく、チョコ作りを開始した。
アロマは料理が…ちょっと…その、あれなので、が監督だ。
「そうそう、おいしそう。アロマもちゃんとやれば…」
「ちゃんとやれば?」
「…いや、えと…あ、もうちょっと生クリームいれようか」
そんなやりとりをしていると、玄関の方から物音が聞こえてきた。
「あれ、教授帰ってきちゃったのかな?今日遅くなるって言ってたはずだけど…」
「えぇ、困るわ!ちゃんとラッピングしてから渡したいのに!」
二人してあせっていると、とてとて、という軽い足音とともに、少年の声で「しつれいしまーす」と聞こえた。 「あれ、先生まだ帰ってないんですか?」
物音の主はルークだった。学校の帰りにそのまま来たのだろう、通学鞄を背負っている。
「なんだあ、ルークか。びっくりしちゃった」
「なんだとはなんですか、さん。僕だって、立派な英国少年として…」
「うう、ごめん、なんだって、その、違う理由で、」
「ルーク、今日は誰かにプレゼントあげたの?」
アロマが、責めるルークとたじたじするにお構いなしに尋ねる。
「今日はバレンタインでしょ。ルークにだって、好きな女の子の一人や二人、いるわよね?」
「え、ぼ、僕は…その…」
もじもじと、急に頬を赤くするルークに、二人はくすくす笑った。可愛いものだ。
「あ、お、お二人にもあるんです。これ、受け取ってください」
ルークは、鞄の中から小さな花束を二つ取り出して、二人に渡した。
「わ、ありがとう、ルーク。さすが英国少年だね」
「ルークも先生に似て、立派な紳士だわ」
ニコニコする二人に、ルークは照れてしまって、顔を真っ赤にしている。
「そ、そうだ。お二人とも、何をしてたんですか?」
話題をそらそうと、ルークがキッチンのテーブルを覗き込む。
そこには、砕いた板チョコや生クリーム、カラフルなトッピングなどがちらばっていた。
「ン、チョコ作ってたの。日本では、バレンタインは女の子が男の子にチョコを贈るんだよ」
「へえ、面白そうですね…」
「ルークも作る?」
アロマがルークの肩をたたく。
「チョコくらい作れないと、立派な英国少年とは言えないわよ」
その言葉に、ルークの目がきらりと光ったのを、なんだか嫌な予感を感じながらは見ていた。




結局、それから数時間後、三人の目の前には奇麗にラッピングされたチョコが一つずつ並んでいた。
最後の過程は思い思いにやったため、三人ともそれぞれの出来栄えはわからない。
「あとは、先生が帰ってくるのを待つだけね」
アロマは自信ありそうに腕を組んでいる。
「僕、結構頑張りました!」
ルークは、一日デートは狙っていないものの、立派な英国少年という言葉につられてかなり力を入れて作ったようだ。
「…まあ、まずくはない…と思う…」
といえば、なんだか自信がない。料理が特別得意と言うわけでもないし、ちょっと凝ってウィスキーボンボンなど作ってみたために、それがうまくいっているかどうか確証が持てない。
一応試食はしたけれど、大人の味すぎてにはよくわからなかった。
そして三人が意気込みを表し終えたのと同時に、丁度よくレイトンが帰ってきた。
「おや、みんなしてキッチンに立てこもって、どうしたんだい?」
三人してめらめらと燃えあがる気迫に、少し引き気味だ。
「いえ…先生、お部屋で待っていてください、すぐに持っていきますから!」
「あ、アロマ?持っていくって何を…る、ルーク、腰を押さないでくれないか、今日はちょっと座りっぱなしで…」
、箱をシャッフルするのよ!誰のかわからなくしないと、きっと先生は気を使うわ!」
アロマとルークに、レイトンはずるずる部屋へ引きずられていった。
の三人が立っている。
「な、なんだかオーディションのようだね」
苦笑いを浮かべ、レイトンが言う。
「ある意味そんなかんじです。さあ、どうぞ!」
「どうぞ、って…この箱のことかい?」
「えと、中身チョコなんです。三人それぞれ作ったんですけど…どれが一番おいしいか、決めてください」
いまいち言葉が足りないアロマに代わって、が説明する。
「ああ、そういうことか…どれが一番か…難しいね。まあまずは食べてみよう」
そう言って、レイトンはまず一番手前にあった箱に手をかけた。
リボンをほどき、丁寧に箱を開け、一口大のチョコを口に含む。
「…うん、おいしいね」
そして、残り二つも同じように食べ、そのたびにおいしい、と呟いた。




「それで、先生。どれが一番おいしかったですか?」
アロマが目を輝かせて聞く。
「ウン…難しいね。どれもおいしかった、ではだめかい?」
「だめです!」
「困ったね…それじゃあ、私の独断で決めてしまうけど、いいかな?」
三人は静かに頷く。
(先生とデート!)
(教授とデート…)
(英国少年!)
それぞれの想いが交錯する中、しばし考えた後、レイトンは口を開いた。
「…この箱が、一番かな」
深いブラウンに、オレンジ色のリボンを巻いた箱を指さした。
「なんといっても、この濃厚なウィスキーの味わいが決めてだったね」
にっこり笑って、レイトンは箱から改めてもう一粒取り出し、口に含む。
その言葉に、アロマとルークはすさまじい溜息とともに、がっくりと肩を落とす。
「負けたわ…」
「絶対、僕だと思ったのに…」
そんな二人を見て、レイトンが口を開く。
「おや、それじゃあこのチョコレートはのだったのかい?」
「あ、はいっ、そうです、…一応…」
あわてて返事をする。なんだか実感がない。こ、これで教授と…デート?
「仕方ないわ、負けは負けね。教授と一日デートの権利はに…」
「わー!わーわーわー!」
アロマの声にかぶせるように、が大声を出す。
「ど、どうしたんだい。私と一日、なんだって?よく聞こえなかったよ」
「なんでも!なんでもないんです!ハイ解散!今日はもう終了です!晩御飯の支度をしましょう!」
パンパンと手を叩き、大声を出しながらアロマとルークをひっぱりレイトンの部屋を出る。
顔が真っ赤で、動悸が激しい。
「どうしたのよ、せっかく先生と一日デートできるのに…」
「そうですよ、もったいないですよ」
ぶーぶーと文句を垂れる二人に、は、いいの、いいの、と返す。
「やっぱり、その…教授だって、いろいろ忙しいだろうしね、迷惑だと思うから」
それに、と付け足す。
「…デートとかは、自分の力で教授と心を…その…通わせてからじゃないと…」
言っている自分が恥ずかしい。更に顔が赤くなるのが自分でわかった。
「……偉いわ!」
「僕、感動しました!」
二人はそんなのはお構いなしに盛り上がっている。
(チョコ…おいしいって言ってくれた。それだけで今は十分…かな)
チョコまみれになったキッチンを片付け、夕飯の支度をはじめながら、はあの時のレイトンの微笑みを思い出しうれしくなる。
今度はもっと手の込んだお菓子を作ってみよう。バレンタインじゃなくても、おいしいものを、自分が作ったものを、もっとたくさん食べてもらいたい。
(そしたら、いつか…デート、できるかな)
ふわふわとした気持ちで料理をしながら、は、未来に想像する幸せを思ってはにかんだ。




おまけ