とりあえず出会い
のろのろと嶋本さんの後を付いて行きながら、いろいろな考えが頭をよぎる。
学校は無断欠席。家族も心配しているはずだ。今日もバイトがあるのに、帰れなかったらどうしよう。
「嬢ちゃん、そない浮かない顔しとらんで、ぱーっと楽しくいかんかい」
「無茶ですよ…こんな状況なのに…」
「せや、携帯は?ご両親に連絡とらんでもええの?」
「そ、そうだ、携帯!」
なんで今の今まで忘れてたんだろう。これさえあれば心配いらず、携帯電話とはかくも便利なものなり。
あわてて鞄の内ポケットから携帯を取り出す。
スライド式のそれを開き、発信履歴から親の名前を探し出し、3プッシュ。
…つながらない。
「な、なんで…?」
よくよく画面の左上を見てみると、『圏外』の二文字がぼんやりうつっている。
「…なんでだよ!東京だろここ!」
東京に電波届かない場所があっていいのかよ!
悔しくて地団太を踏む。
「あーあー、落ちつき、おっちゃんの携帯貸したるから、こっちからかけてみ」
言われて、半泣きになりながら携帯を借り、番号をプッシュしてかけてみる。
「…おかけになった…現在使われて…」
例のアナウンスが流れる。そんなばかな。
番号を間違えたのかと思って、もう一度よく見ながらかけてみても、同じアナウンスが流れるだけ。
なにかがおかしい。
ここは現代の日本で、言葉だって通じるし、服装だって同じようなものだ。
持ってるものもほぼ一緒。だけど、自分のものだけがどこかおかしい。
「ぎ、銀行っ」
嶋本さんの携帯を握りしめたまま、目に入った近くのATMに駆け込み、カードを入れる。
「うそ…」
エラー音とともにカードが出てくる。
これでもう、帰る手段もなくなってしまった。
「なんや嬢ちゃん、いきなり人の携帯持って走らんといてや」
てくてくと追いかけてきた嶋本さんに、警察どころの騒ぎではないことを伝えたい。
「あ、あうう、」
言葉にならない。完全にパニックになって、嶋本さんにしがみつき、がくがくと彼の体を揺さぶる。
「か、かえれない…帰れないぃ」
「お、おおう、落ちつかんかい、」
「あぁぁぁぁん!!」
「な、泣くなて、泣くな!おっちゃんがなんとかしたるさかい、泣くんはやめ!」
嶋本さんが背中を撫でてくれる。
「と、とりあえず警察いこな、うん、そうしよ」
ぐすん、ぐすんとしゃくりあげながら、頷く。
なにか嫌な予感がしたが、大人しく彼についていく。
「電話番号も使われてへん、言うた住所にも家はなし、戸籍もなければ持っとるもん全部エラーはきよる」
結局、警察にいっていろいろ調べてもらったところ、簡単に言ってしまえば、この世界で
の存在は認められていなかった。
通っていた学校の名簿にも名前は載っていない。家族の名前も調べてもらったが、会社にもその名前はなかった。
「パラドクスだ…並行世界だ…」
は、近くのファーストフード店にとりあえずつれてこられ、嶋本さんとお茶を飲んでいた。
頭を抱え、ぶつぶつと呟く。
「ま、端的に言うたら、帰るとこも行くとこもないちゅう話やな」
「端的すぎます…」
「ほなもっと難しく言うたほうがええんか?」
「…並行世界にスリップだ…マトリクス?情報の書き換え…存在の否定…あああああ」
「ほら、難しく考えたら頭爆発するで。嬢ちゃんあんま賢そうな顔してへんし、なおさらやろ」
「失敬にもほどがありますよ!これでも成績は悪くないんですよ!」
「証明するもんもなんもないけどな」
「うう…」
これからどうしよう。お金もない。戸籍もない。親もいない。未成年だし。バイトもできない。住むところもない。
「絶望だ…野垂れ死にフラグとしか思えない…」
ますますもって頭を抱え込み、うつむいて動かなくなる。
「はー、も、しゃあないな」
そんな
をしり目に、じゅーっとアイスティーの最後の最後まですすった嶋本さんが、カップをドンとテーブルに置き、ユキに言った。
「とりあえず、俺ん家くるか」
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